海外生活を通した子どもの英語習得についての3つの誤解

「アメリカに住めば子どもは英語をすぐに習得することができる」は都市伝説

多くの日本人は「アメリカに住めば子どもは英語をすぐに習得することができる」と思い込んでいるが、これは私に言わせれば都市伝説である。アメリカでの子育てと教育は、「誰だよ、子どもはすぐに英語をできるようになるって言ったの!?」という驚きと失望から始まると言っても過言ではない。もちろん、習得が早い子どもがいるのも事実だ。でもそれは、クラスに足が速い子がいたり、感性豊かな文章を書く子がいたり、面白くて皆をいつも笑わせる子がいたりするのと同様に、アメリカでの英語習得がかなり早い子もいる、ということに過ぎない。なので、すごく時間がかかる子どももいるので、自分の子どもが英語に苦労しておりアメリカ生活になかなか馴染めない、という方もあまり焦ってはいけない

  • 子どもが学校の授業に全くついていけないので、学校に行きたがらない
  • 子どもだけではとても宿題ができないので、親の支援が必要ですごく大変
  • 日本では沢山友だちがいたのに、言語の壁にぶつかり友だちが殆どいなそう
  • 上記のことが積もり積もって、「日本に帰りたい」モードになってしまう

などのことは、普通のことであり、多くの人が通る途なので、アメリカに来たばかりという方々はどうかあまり心配しすぎないで頂きたい。苦労が当初の予想以上であるのは、そもそも子どもの語学の習得について誤解があったからであり、誤解を解消し、きちんとしたサポートを提供することこそが重要である。なので、本稿では、海外生活を通した子どもの英語習得についての3つの誤解をあげていきたい。

誤解その1 アメリカに住めば、子どもは英語をすぐに習得できる

「子どもは大人よりもすぐに英語を習得できる」という点については私も否定はしない。実際に渡米当初は私のほうが子どもより英語がはるかにできたが、この7年ほどで子どもたちは私を抜き去り、手の届かないところに既に行ってしまった感がある。が、この「大人より」という非常に重要な前提条件が取り払われた「子どもはすぐに英語を習得できる」という説が一般的に受け入れられていることには驚かされる。もちろん、「すぐ」がどれくらいなのかは人によって異なるが、「渡米後半年たっても子どもがなかなか英語が話せるようにならない」というような悩みは私もたまにきくが、半年なんてそんな「すぐ」には話せるようにならないよ、と私は思う。

アメリカの外務職員局(Foreign Service Institute)のサイトによると、英語話者が日本語を習得するには、言語の構造上に大きな違いがあるため2,200時間ほどかかるという。仮に逆も真なりとして、日本語話者が英語を習得するのにも2,200時間かかるとしてみよう。子どもが、平日に学校で英語に触れる時間を6時間程度とすると367日ほどかかることになり、土日や夏休みなどを考慮するとざっくり1年半ほどかかることになる。もちろん、個人差があるのでもっと早い子どももいれば、もっとかかる子どももいるが、わが家の子どもたちに「現地校の友だちと言語の壁をあまり感じず、会話ができるようになったのは渡米後いつ頃か?」という質問をしたら、「大体1年半くらいかな」と二人とも答え、偶然とは思うがかなり近い値となった。

「うちの子どもはもっと早かった」、「うちの子どもは毎日楽しみながら英語を勉強していて苦労など見受けられなかった」という人がいるのはもちろん認めるが、そうでない人も沢山いるという事実についても十分理解を頂きたい。もう一度繰り返すが、「子どもは大人よりもすぐに英語を習得できる」というのは大抵の場合あてはまるが、「子どもはすぐに英語を習得できる」はそうではないのだ。

誤解その2 アメリカに住めば、子どもは自然とバイリンガルになる

「お宅のお子さんは、小さい頃からアメリカに住んで、日本語と英語を自然と話せるようになっていいですね」というような妄言を吐かれると、相手の頭をかち割りたくなる。アメリカに住んでいるだけで、日本語と英語の両方が苦労なくできるようになるわけがない。もちろん、皆さん悪気があって言っているわけではなく、単に無知なだけなので仕方ないのだが、子どもたちの努力を目の当たりにしてきたので、どうしても怒りが先にたってしまうのは私の人間の未熟さだろう。

英語を習得するには2,200時間ほどかかるという一つのデータを上述したが、単純な勉強量の多さだけでなく、下記のような苦労を抱えている子どもたちは多いはずだ。

  • 授業が全くわからないけど、一日中学校の授業を受け続けないといけない苦痛
  • 自分をだして気兼ねなく話せる友だちが現地校におらず、自分を隠さないといけない孤独
  • 絶対の自信を持てない言語の使用を常に強いられる環境へのストレス

東京にICU(国際基督教大学)の付属高校があり、本校は多くの帰国子女を受け入れている。一時期娘を高校から日本に帰すことを本格的に検討して、学校説明会に行ったことがある。そこで、在校生が口々に言っていたのは「ここでは本当の自分をだせる」ということで、国に限らず共通に海外子女が抱える孤独や苦悩に逆に直面することになり、私は強いショックを覚えたのを今でも覚えている。

そして、アメリカに住みながら日本語を維持するというのも決して簡単ではない。わが家の子どもたちは、土曜日に日本語の補習学校に通っているが、週一回の授業で日本のカリキュラムをこなそうとするため、自ずと宿題も多くなり、現地校と補習校の宿題のダブルパンチをこなしつつ、週休一日で日本語と英語の両方の習得に向けて努力を重ねている。アメリカという国が英語習得の点では学習効果の高い恵まれた環境であることは確かだが、一つの言語を習得するというのは誰が、どんな環境で実施しても相応の努力が伴うものであることは強調したい。

誤解その3 子どもは高い英語力を身につける環境を与えてくれた親に感謝する

アメリカに住んでいても、英語の習得は大変なものであることを以上述べてきたが、こういう話をすると「今は苦労しているけど、将来絶対お父さんとお母さんに感謝するよ!」などとわが家の子どもに熱っぽく語る人もいるが、正直これは大きなお世話である。環境の差はもちろんあれど、子どもにしてみれば自分が苦労や努力をしながら身につけた語学力である。自分が望むわけでもなく、そういう千尋の谷にぶち落とされて、何とか這い上がってきた結果であるから、多分感謝なんかしないのではないかと思う(これは想像ではあるが)。

わが家の場合は、「人生を豊かにするために異国の地でも家族で生活をしてみたい!」なんて脳天気な理由で私が家族を連れてアメリカに移住したので、表にはださないが(一時期は思いっきりだされていたが)、「こいつのせいでこんな所に連れてこられて」と感謝どころか、きっと恨まれていると思う。自分の子どもたちが、親になり、彼らの子どものことを思い、子育てに苦労したり、壁にぶつかったりした時に、少しくらい私と妻の彼らに対する親心に1秒でも想いを馳せてくれたら嬉しいな、というような淡い期待はある。が、「お前ら、オレのお陰で若くして高い英語力を身につけることができたんだから感謝しろよ」なんて傲慢な考えは、少なくとも私は1ミリも持っていない。

まとめ

「アメリカに住めば子どもは英語をすぐに習得することができる」というのは都市伝説だ。語学の習熟の早さは人それぞれであるので、もちろん早い人もいることは否定しないが、大変な努力と苦労の結果、高い英語力が身につくことが殆どだ。

  • 誤解その1 アメリカに住めば、子どもは英語をすぐに習得できる
  • 誤解その2 アメリカに住めば、子どもは自然とバイリンガルになる
  • 誤解その子どもは高い英語力を身につける環境を与えてくれた親に感謝する

アメリカに家族で来て、子どもがなかなか環境に溶け込めず苦労しているという方は、上記の3つの誤解をあらため、正しい認識をもって、お子さんをサポートしてあげて欲しい。

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